法戦式法問

  第一問 聖諦第一義
問 作者は、如何なるか是れ聖諦第一義。乞尊意。
答 寐語することなかれ。
問 中々、祖室門下の第一義でしょう。
答 いいや、聖諦第一義というは、万劫の繋驢ケツを留めて本分の一義と錯まったことよ。
問 尊意、尊意。
答 廓然無聖。
問 廓然無聖とは本分でしょう。
答 作麼生か道え、本分の第一義。
問 珍重。
答 万歳。

  第二問 三界唯一心
問 作者は、三界唯一心。乞尊意。
答 その心を呈露し来れ。
問 中々、現成の一々が唯一心に他ならないぞ。
答 いいや、三界唯一心というは、奴を留めて郎と作すの痴漢だぞ。
問 尊意、尊意。
答 三界無法、いずれの処にか心を求めん。
問 正得、無心の心こそ唯一心にござない。
答 這箇の竹篦、心外に有るか心内に有るか。
問 珍重。
答 万歳。

  第三問 直心是れ道場
問 作者は、直心是れ道場。乞尊意。
答 維摩言下に落在すること勿れ。
問 中々、一歩の歩みが是れ道場なり。
答 いいや、直心是れ道場というは、言句上の上滑りにして精細の参学ないぞ。
問 尊意、尊意。
答 乞処は見よ、一翳眼に在りて空華乱墜。
問 正得、一瞬の隙無き参究こそ真箇の道場ならんか。
答 作麼生か、是れ真箇の道場。
問 珍重。
答 万歳。

  第四問 発菩提心
問 作者は、発菩提心。乞尊意。
答 菩提心を発すというは、自未得度先度他の心をおこすなり。
問 中々、元来大地に衆生無しだぞ。
答 観音菩薩三十三身を現じ給う。
問 尊意、尊意。
答 初発心、百千万億発するなり。
問 正得、初発心の勢いは宇宙を度す力有り。
答 恁麼に来るも只管の万里一条鉄。
問 珍重。
答 万歳。

  第五問 参禅学道の用心
問 作者は、如何なるか是れ参禅学道の用心。乞尊意。
答 汝、手を切り足を切る事勿れ。
問 中々、只管打坐こそ宗門の正道にあらずや。
答 いいや、只管打坐というは、一幅の画餅にして飢えを充たすに益無し。
問 和尚は高祖道を滅却するか。
答 正に是の如し。只管打坐は瞎驢辺に滅却せり。
問 滅却の風光、作麼生。
答 正身端坐して作仏を図る事勿れ。
問 和尚、更に一隻手を出だすべし。
答 この音声何処より来りて何処にか去る。法身覚了すれば無一物。
問 珍重。
答 万歳。

  第六問 平常心是れ道
問 作者は、平常心是れ道。乞尊意。
答 時々に払拭して塵埃を惹かしむることなかれ。
問 これは驚いた。和尚は六祖の児孫にあらざるか。
答 釈迦の児孫は皆、払拭し来る。
問 ありのままがそのまま道ならずや。
答 いいや、ありのままと認めれば既に遅了八刻。
問 認める我を如何せん。
答 瞬間瞬間を真実たらしめてこそ道となるぞ。
問 正得、与麼ならば如何なるか是れ道。
答 茶に逢うては茶を喫し、飯に逢うては飯を喫す。
問 珍重。
答 万歳。

  第七問 生を明らめ死を明らむ
問 作者は、生を明らめ死を明らむるは仏家一大事の因縁なり。乞尊意。
答 生死は暫く措く。須らく即今底を明らむべし。
問 中々、如何んが即今底を明らめん。
答 手元を明らかに、薄氷を踏むが如く動作すべし。
問 尊意、尊意。
答 一瞬の隙無く只在るべし。
問 正得、この一瞬に生有り、死有り。
答 作麼生が故に、生死はほとけの御いのちなり。
問 珍重。
答 万歳。
問 珍重。
答 万歳。