防犯しろしま 平成11年9月 No137 より

講演の紹介

 「広島市犯罪のないまちづくり連絡会議」は七月六日、広島国際会議場で開催され、関係機関や団体の代表百二十人が出席しました。この会議は、市民ぐるみで犯罪のない安全な街づくりに取り組もうと、地域・職域の諸団体と市行政・警察が連携し、平成五年から毎年開催しています。
 今回は、地域ボランティアとして、行動力と献身的姿勢を目指す日本ガ−ディアン・エンジェルスの代表が特別講演。ガーディアン・エンジェルスの結成経緯や、今秋発足する『広島ガーディアンズ』について説明しました。
 講演の要旨は、次のとおりです。紙面の都合で本号と次号に分けて掲載します。

『広島ガーディアンズ』  (今秋発足)

日本ガーディアン・エンジェルス代表 小 川 啓 二
  私共ガーディアン・エンジェルスと、自分の経験からしてきた地域安全活動についてお話ししたいと思います。
 先ず、本日はお招きありがとうございます。東京から今朝、やって参りました。
 冒頭に、私共はこんな派手な真っ赤なジャンバー、真っ赤なベレー帽子、ユニホームを着用して活動しておりますので、屋内ではございますけれども、このような格好をお許しください。
 最初に何故、私がきょうお邪魔したか。皆さん、積極的に犯罪のない広島をつくろうとご尽力されていると聞いておりますが、同時に、県防犯連合会の皆様が『広島ガーディアンズ』というグループの発足に、これから頑張りたい、ということで声がかかりました。
 そこで、ガーディアン・エンジェルスの活動の経緯を織り交ぜながら、説明させて頂きたいと思いますが、こんな格好をテレビや新聞等でご覧になった方はいらっしゃいますか 《数人が挙手》。いらっしゃるんですねぇ。安心しました。
 認識のずれがあるかどうかは別としまして、知って頂いていることはうれしいことです。
 正確な情報を申し上げますが、ガーディアン・エンジェルスは、一九七九年(昭和五十四年)にニューヨークで発足しました。マクドナルドというハンバーガーショップの従業員達が、店の前のゴミ拾いをしていたというのが発端です。当初は、自分達の店の前をきれいにしようという献身な姿勢での清掃活動が、五ブロック(五町内)に広まって行きました。
 一九七〇年代の中盤に差しかかりますと、アメリカもベトナム戦争がありまして、国民に不安が募っていた時代だったそうです。そして、経済不況が伴い予算削減ということで、犯罪のない街づくりをしたいと思いながらも警察官が五千人もカットされた。実際に、皆さんの地域の回りから交番、駐在所の制服警官が、いきなり五千人もいなくなったと想像して頂いたらよくお解りになると思うんです。そんな時代に街がだんだん悪化して行き、そしてゴミもどんどん増えて、無法地帯化していきました。
 マクドナルドの店長カーテススリアが活動を始めた当時は二十五歳でした。今も健在で四十五歳です。店のアルバイトで未成年もいる若い人達に何か任務を渡すと実際にやるぞと彼は実感しました。奉仕活動でゴミを拾う、またはリサイクル活動、日本でも条例化、法令化されてリサイクル再生活動。そんなようなことが発端です。しかし、警察官が五千人もリストラに遭った。一九七〇年代後半、ニューヨークで地下鉄に乗ると尿臭い、車輌には落書きがある、ホームレスが乗車している、あげくの果てはそこで薬物を売買している。ハンドバックを持って乗車していたら取られる、居眠りをしていたらスリに遭う、そんな時代が実際にあったそうです。
 ガーディアン・エンジェルスは、人間のゴミも何とかしよう、自分達で安全を守ろうと、地下鉄パトロールとして十三人を選抜し乗り込んだ。
 ガーディアン・エンジェルスというグループは、ニューヨークでゴミを拾いはじめた。そして、もっともっと地域には問題があるんじゃないかということで、地下鉄のパトロールにまで発展して行った。一九八六年にクラックという単価の安い、コカインを蒸留して造られた固形の薬物が蔓延しはじめました。これがホームレスの倍増、そして強盗、殺人というような犯罪増加にも繋がっていった。そういう撲滅キャンペーンも、ガーディアン・エンジェルスは一生懸命、全米で地道に展開しました。
じゃあ、ガーディアン・エンジェルスとは何をするグループですかととよく聞かれます。”自警団”と書かれたり、語呂合せがいいもんですから”自警組織ガーディアン・エンジェルス”と形容されるんですが、実際そうではないんです。
 私共は、パトロール活動を通して地域社会へコミュニティーサービスを展開。その地域のニーズに答え、その地域に合ったコミニュティーサービスを提供しております。それは、ニューヨークと東京、東京と広島では社会問題、地域問題が違います。ですから、実際にこの制服、ユニホームを着て地域に出て行き問題となっていることに対して、積極的に率先してかかわって行こう、解決できなくてもいいから、既存の地域の皆さんのグループと連絡をとりながら又は、行政機関と連絡をとりながら、積極的に青少年の健全育成をしていこうじゃないか。そんな活動をしています。
 実は私、小学生のころからボーイスカウトとして、出身地の北海道で活動していました。アメリカに行っても、ボーイスカウト活動を続けました。
 ですが、何が自分を変えたのか一言で申しますとガーディアン・エンジェルスに巡り会えてからです。私は、高校をアメリカで卒業しまして、ボストンという町で友人に勧められガーディアン・エンジェルス活動に巡り会いました。それまで、アメリカで二年間生活していたんですがアメリカと言う白人社会、背が高く金髪でと考えていました。
 しかし、ガーディアン・エンジェルスの活動を通して、一歩郊外に出て見ますとそこには、窓ガラスのない家に住んでいたり、又は姉妹が売春していたり、父親がアル中であったり。そんな家庭、地域環境、生活している現状を目の当たりにしたんです。これが自分自身を変えました。
 私は、英語をしゃべれるようになりたい一心でアメリカにいったんですが、そのマイノリテーイ社会と言いましょうか、白人社会とは裏腹に、そういう地域社会の中で見た光景が私には、ぐさりと突き刺さりました。やはり教育者であったり、リーダーシップ即ち、手本となり見本となる人達が少ない地域社会だということを、思い知らされました。そんな中で育つ子供はどういう方向に行くのか、皆さんも想像のとおりです。
 そういう地域の中でガーディアン・エンジェルスというのは、「こうゆう道もあるんだぞ」と、パトロール活動を日々継続していました。
 実は、ガーディアン・エンジェルスは日本法人として、特定非営利活動法人(NPO法人)の認証を今年四月、経済企画庁長官から受けた訳ですが私は、ボランティアと言えども皆さんに認められる組織になりたいと思って法人化しました。勿論、ボランティア活動ですから給料は、一切貰っておりません。通訳をしたり、海外の調査をしたり、また、実家の仕事を手伝ったりで生活費は稼いでいるんです。アメリカでは、言うなれば都会の中でジャングル生活をしたいたんですが、どうしてニューヨークが最近、安全な街として生まれ変わったのか。
 よくメディアを通して皆さんも感ずるところで、きょう私が広島に来た接点とニューヨークの犯罪の減少は、大変係わりがあるんです。
 先ず結論から申し上げたい。ニューヨークは、殺人事件が七年間で六十七パーセントも下がった。一九九〇年のニューヨーク市警察の統計では、殺人は年間二、一三七件。九七年には年間約六〇〇件ぐらいまで減少したという統計だそうです。では、どういう方策で減少させたか。
 それは、ブロークンウインドーズ理論=犯罪学仮説。直訳しますと「割れた窓ガラス理論」。ハーバード大学の学者が唱えた仮説です。
 ニューヨークにあるブロンクスと言うスラム街に、ある車を放置しておいた。そして、シリコンバレーのあるカリフォルニアのパワルトという街に、全く同じ色の同じ車を置いておいた。そうすると、スラム街の方の車の窓ガラスは三時間で割られ、あげくの果てに二日間でストリップ状態、即ち裸にされてしまった。ハンドルから、タイヤから、部品まで。片や閑静な中流階級の住宅街パワトルに置いた全く同じ車種の車は、十日間放置されても何もタッチされなかった。ところが、その学者が、ハンマーを持って運転席の窓ガラスを割ったそうです。そうすると同じ減少がたった二日間で見られた。即ち「その窓ガラスを誰が直すのか。小さな窓ガラスでもすぐに直そう」と言うのがこの理論の答えです。放ったままにしておくと、地域全体がすさみますよ。窓ガラス一つだったとしても、小さな窓でもすぐ直そう。近隣の方が、声をかけあって直すということをやることによって、地域全体が守られますよ。ということです。
 この手法をニューヨーク市は使って、六十七パーセントの殺人事件の発生を下げた。市警の専門チームを組んで殺人に繋がるものを分析したんです。すると、殺人の根底には小さな犯罪があることが分った。即ち殺人の背景には強盗、売春、薬物売買、そしてその背景には落書きがあった、汚いゴミが散乱している環境があった。市は、先ずゴミ箱を増やした。清掃局の人員を増員し街をきれいにしようということを始めた。地下鉄の車輌には沢山の落書きがあり、一斉キャンペーンを張って落書きを消した。小さなところからどんどん改善して行った。
 きょう私は、広島の街を見せてもらいました。担当の県警の方に「落書きがないですね」と言いました。それは、広島が誇れるべきことなんじゃないかと思います。渋谷ですとか、大阪ですとか、私共が活動している中で一番目に入ってくるものは落書きです。それを消そうともしない地域もあるんです。広島の皆さん、立派によく免疫作用として追い出しているということに気付きました。
 ニューヨーク市が、小さなところからやったことは実は、ガーディアン・エンジェルスの背景とも同じです。
 私共はこんな立派な恰好をしていても、そんなに大きな事は出来ません。少年問題で大人の方々がいろいろと検討され現場でも頑張られている。そうすると「駄目じゃないか」、「家に帰りなさい」という口調になてしまう。ガーディアン・エンジェルスは、若い世代のボランティアが多いのです。渋谷や池袋、大阪ですと南というような繁華街、今は仙台でも活動していますが、何でガーディアン・エンジェルスの活動は、地域に浸透しているのかとよく言われます。我々はグループで活動するんですが、注意するのを”怒る”スタンスでは行いません。外でやりたい放題やっている少年ですとか、非行を犯す少年もおりますが、同じ目線で、大人と同じ態度でコミュニケーションをとります。例えば、広島の路面電車に乗りウォークマンでうるさい音楽を聞いている人がいる。「うるさいよ」と言い勝ちなんです。私も世話焼きですから「ちょっと静かにしたら」と言いたいです。ガーディアン・エンジェルスのコミニュケーションの手法としては、「ねえねえ何を聞いているの」と会話を始める。すると相手は心を開いて来る。最後に「そうだよね。でもうるさいよね」とズバッと言ってしまう。そうす ると今の子供達は誰も歯向かって来ません。「すみません」と謝ります。例えば喫煙している少年、少女、全く同じですね。セーラー服を着て喫煙したり、地べたに座って喫煙している子供達に「どこから来たの」、「何やってんの」、「どう最近」。まあ、どんな言葉でもよいんですが、実際に彼らと同等の立場で話を始めると、必ず彼らは心を開いて来ます。
 私自身日本で活動した四年間、そういった人達に今のような手法で接して「何だお前は、何の権限もないだろう」と言われたことはありません。それが駅構内でタバコを吸っている人達に、「駄目じゃないの禁煙だよここは」と言ったって、無視されるだけなんです。
 ガーディアン・エンジェルスの活動を通して、こうした小さなことからでも犯罪は防いで行けると思うんです。ですからブロークンウインドーズ理論で、小さなことを小さな単位からでもやろうじゃないか。そんなことを日本のガーディアン・エンジェルスでは、実際にやっております。
 一九九五年、日本で活動を始めました。四年前です。阪神淡路大震災のあった年で、ボランティア元年とも言われました。また、その年の三月二十日にはサリン事件があり国民が不安になった。ガーディアン・エンジェルスとしても使命感を感じ何かしたいと思い、回りからも「日本で、何かやったらどうだ」と、声をかけられた。そうする中、事件直後にマスメディアをとおしてガーディアン・エンジェルスのことがちょっと出たんです。
 すると、実に一週間に三五〇人からの問い合せがありました。じゃあ、ガーディアン・エンジェルスも、日本で活動を始めようという気になったんです。
 そもそも、ガーディアン・エンジェルスンの始まりは、地域が悪化していき教育的模範となる者、リーダーが不足して来てそんな中、行政ばかりに頼っていないで、地域の中でもっとロールモデル、即ち模範となる人、見本となる人を増やそうということでした。
 アメリカでの発足は、犯罪が蔓延したり、ドラッグが蔓延したり、売春が蔓延した結果です。日本はそこまで至っていませんが、でも、三五〇人からの問い合せがあったことは、何かを意味していたんです。何かをしたい若い人達がそこにいたということなんです。世の中、暴走族だけじゃあない、ボーイスカウトだけじゃない。じゃあ、ボーイスカウトのように健全な活動しているグループと、暴走族のように健全でないグループと、その間に挟まれた子供達、若い人達は何をしたらよいか。それが、三五〇人だったんです。
 私あh、日本で活動する決心をしました。それからは、毎日のように問い合せが殺到しまして、一緒に活動したい人が東京でも増えて来ました。それは、ボランティア元年と言われた部分もあったが、時期的に若い人が居場所を求めている部分と重なったのか、模範となるリーダーが欠略している社会だな、ということを直感しました。テレビ、新聞、雑誌等でよからぬことを流していても、若い人達はついて行きます。一連のナイフを使った少年犯罪等もそうですが、皆そういった真似をしてしまいます。よき模範となるリーダー、兄貴分となる人が身近に、地域からいなくなった。昔ですと「向こう三軒両隣」と言う具合に地域は連帯意識を持っていた。それが自治防犯力だったんです。回りの人達が地域を見守っていたんです。それがどこかの世代でおかしくなって、今の若い人達に受け継がれていない。どこであろうがたばこを捨てる、ゴミを捨てる、誰の物でも取ってしまう。誰かに注意されても「関係無いだろう」。そんな時代になったんですねえ。何が我々にできるのか、ガーディアン・エンジェルスも活動を始めました。まず声をかけようじゃないかと。
 きょう、県警本部長にお会いしました。県警では声をかけようという運動している、と言われていました。素晴らしいことだと思います。
 実際に、声をかけてコミュニケーションを取る大人が最近いない。食卓で、自分の子供と最後に話したのはいつですか、そういうことを考えると、小さな身近なところからでも少年犯罪は防げるんじゃないか。地域の見守る目というのは、自分の子供を見守る、回りの子供を見守る、また知らない子供を見守る、そうゆう地域社会を指していると思うんです。
 「声かけ運動」は、ガーディアン・エンジェルスが日本で始めた。日本におけるガーディアン・エンジェルスの役割は、犯罪そのものの低減につとめるのではなくて、犯罪に対する不安感の低減であったり、犯罪そのものを防止しよう、未然に防ごうということを目標に活動を始めました。
 現在二五〇人がボランティアとして登録し、東京をはじめ仙台、関西で活動しております。まだまだ、私共も未熟な部分がありますのd皆さんのように、地域に密接に係わって来た諸先輩のアドバイスを受けながら、各地域にあった需要、改善策を探しつつ活動をやっております。
《以下次号》

HIROSHIMA GUARDIANS

THE NEW VOLUNTEER’S TEAM

広島ガーディアンズ

SAFETY PATROL

見てみぬふりはやめて 困っている人を助けよう
一緒にやろうよ!

広島ガーディアンズ

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